これからの駐車場ビジネス(第5回)
「自動運転と駐車場」

一般社団法人全日本駐車協会事務局

連載5回目では、自動運転の動向にスポットをあて、自動運転社会と駐車場について考察する企画としました。政府は成長戦略の柱に車の自動走行を掲げ、各地で様々な実証実験が行われています。これに伴ってメディアでは自動運転に関する報道が溢れていますが、ここで全体像を俯瞰してみることにより、これからの自動運転についての動向、更には駐車場ビジネスにどのような変化が生まれてくるのか、検討を試みることと致します。


1.自動運転実現への条件

⑴技術開発面と法制度面から解決すべき課題
自動運転に関しては、国内外で様々な実験が実施されたり、何時までどのメーカーが完全自動運転車(ハンドルのない車)を発売するといった報道がなされています。我が国では 2020年を一つの目途として一定の条件下における自動運転は実現されることとなっています。これらに関する報道に接していると、どうしても映像的に見栄えが良かったり、目立つものが取り上げられがちで、技術開発面に関するものが殆どといって良いでしょう。しかしながら、少し冷静に考えてみると、新たな技術を搭載した車両が町なかを走るには、 法律に則った合法的なものでなくてはなりません。関係する法律との整合をどのようにとっていくのか、非常に大きな問題であるといえます。自動運転に関わる法制面の問題については、全体像をつかめる資料がなかなか見つからないのですが、おおよそ下図のような法律が関係してくるようです。

自動運転に関わる法律

自動運転に関わる法律

駐車場ビジネスにおいても、駐車場法から始まり、道路交通法、車庫法、建築基準法等の様々な法律が関わってきますが、自動運転に関しては、道路、交通、車両、免許、更には賠償責任など一層複雑な法律関係が生じてきます。従って、自動化の各レベルに合わせて関係する法律も適宜見直しが求められることとなります。更に容易ならざる要素として、車は国際商品であり世界中を走り回る訳ですから、国際ルールとの整合や改正等も必要となってきます。

⑵ジュネーヴ条約、ウィーン条約
上記の関係法律のなかでも特に大きな課題とされているのが、道路交通に関するものです。道路交通について国際的ルールを定めているのは、1949年に制定された「道路交通条約」(通称:ジュネーヴ条約)というものであり、我が国はこれに加盟しています。この条約の恩恵で我々に比較的馴染みがあるのは、国際免許証です。同条約を批准している約100か国では国際免許があれば、その国の免許を持っていなくとも車を運転することが出来ます。

ところが約70年前に定められた条約である為、自動運転などは文字通りSFの世界で、 当然のごとく運転者がいることを前提としていて、「車両には運転者がいなければならない。」、あるいは「車両の運転者は、常に、車両を適正に操縦しなければならない。」と規定されています。

ジュネーヴ条約と整合性を持たせた我が国の道路交通法(1960年施行)においても、「車両等の運転者は当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作しなければな らない。」と規定されています。

その為、自動運転を合法的なものとするには、国際的にはジュネーヴ条約を、国内的には道路交通法を改正或いは解釈の変更をするなどして整合をとっていくことが必要となっています。ジュネーヴ条約については、国連関係機関の道路交通安全作業部会(WP1)において議論されていますが、改正はなかなか難しく、時間をかけて対処していく努力が続けられています。

またジュネーヴ条約を補完するものとして、1968年に制定された「ウィーン道路交通条約」(通称ウィーン条約)というものがあり、約80か国が加盟(我が国と米国等は未加盟)していますが、この条約は自動車産業が盛んな欧州諸国が多く加盟していることもあって、 何度か改訂が行われており2016年の改訂において、「(システムから)即座に運転を引き受けられる場合の自動運転を認める」こととなっています。これを受けてドイツは、他国に先んじてレベル3を認める道路交通法等を昨年改正しています。昨今、ドイツ企業が自動運転に関する新技術を搭載したモデルを発表している背景には、このような法改正があるといえます。

道路交通に関する条約の締結国等

道路交通に関する条約の締結国等

警察庁資料

 

⑶国際ルール変更に関わる我が国の取組
道路交通と並ぶ大きな課題とされる車両基準については、同じく国連関係機関である自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において議論されています。

国連における自動運転の車両に関する技術基準の検討体制

国連における自動運転の車両に関する技術基準の検討体制

国土交通省資料

 

様々な課題が議論されていますが、我が国は多くの会議体で議長或いは副議長の役職に就いて、議論を主導する立場を確保しています。自動車産業は長らく我が国経済の屋台骨を支えて来た産業であり、今後も世界をリードしていく為に、国益の確保に努めているといえるでしょう。

⑷従来とは異なるアプローチの必要性
ところが、ここにも問題があります。先に触れたジュネーヴ条約並びにウィーン条約に、今や世界最大の自動車市場となった中国は加盟していません。米国等ではジュネーヴ条約に独自の解釈を行って法改正を行う事例が出てきており、更には米国の一部の州では独自の州法を制定して公道での自動運転車の実証実験を誘致する動きすらあります。先般、米国アリゾナ州で実験車による死亡事故が発生してしまいましたが、同州は実証実験を誘致し関連ビジネスの進出を期待する典型例ともいわれています。

そのような状況では、従来のように状況変化への後追いで法改正を行っていくのではなく、国際ルールの改正等の努力を続けながらも同時に新たな技術の実証実験を進める仕組みを整える必要があります。国際的な自動運転の実用化競争に負けない為には、従来とは異なるアプローチのもと先取り戦略を行っていかねばならないということ、つまりはゲームのルールが変わったのだと思います。

このように見てみると、政府が自動運転に関わるロードマップを状況の進捗に合わせて毎年見直していることや、実証実験を既存法制の例外扱いとなる特区制度等を活用して積極的に進めていることも理解できます。また政府は国際的競争力の維持確保と同時に、自動運転を少子高齢化等の我が国が直面する課題への対処策として生かしていくことも進めています。急速な少子高齢化は我が国が他国に先んじて直面する課題ですが、もし対処策を見出すことができれば、そのノウハウを他国へ提供していくことも可能となりましょう。


2.自動運転のレベル定義と法的責任

⑴変更されたレベル定義
従来我が国では、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)の定義を踏まえてレベル0からレベル4まで5段階に分類していましたが、2016年にNHTSAが国際自動車技術者協会 (SAE)による定義を採用したことを踏まえ、2017年より自動運転の定義をレベル0からレベル5までの6段階に変更しています。これは国際的な基準統一化の動きと協調的に整合をとっていくという趣旨で行われたもので、従来の定義との相違は概ね完全自動運転を意味するレベル4が、新基準ではレベル4とレベル5に分けられたものと解されています。

表1:自動走行レベルの定義

表1:自動走行レベルの定義

経済産業省・国土交通省資料

 

我が国でも商品化されている、高速道路等で先行車を追尾しながら走行する機能は従来と同様にレベル2に相当します。そして様々な実証実験が行われているのはレベル3及び4 を目指すものですが、レベル3以上では車両制御の主体が運転者からシステム側へ移って来る為、先ほど述べた法制面の課題がクローズアップされてくることとなります。事故等が発生した場合の責任は誰が負うのかという問題です。

⑵法的責任の所在 レベル3までを当面は整理
この点に関しては、政府は本年3月30日に基本方針を発表しました。レベル3までを対象としており、国際的な制度変更を含めて不透明な部分があることから、レベル4以上は今後の検討課題とされています。概要は以下の通りです。

  1. 事故の賠償責任は原則として所有者にあり、加入が義務付けられている自動車損害賠償責任保険(自賠責)を活用する。メーカーの責任はシステムの明確な欠陥がある場合のみとする。
  2. ハッキング(外部からの乗っ取り)による事故の賠償は、盗難車による事故被害と同様に政府による救済を行う。但し、所有者がシステム更新等必要なセキュリティー対策を怠 った場合は除く。

不確定な部分を残しながらも技術の進歩を阻害しないように、現行法制との整合を保っているといえるのではないでしょうか。

一方、レベル3は条件付運転自動化と定義されており、限定された条件下ではシステム側で車両を制御するものの、システム側で作業継続が困難な場合は運転者が制御を引き継ぐことになっています。この点に関しては、現実的に可能であるのか疑問視する意見も出ています。時速数10kmで移動している車両のコントロールを、直前までリラックスしていた人間が引き継ぐのは不可能ではないかという問題提起です。運転者(所有者)は事故が発生した場合の賠償責任を負わねばなりません。そこで、自動運転中においてもシステム側と運転者の間の連携をどのように取っていくのかという点が技術的な課題となってきます。自動運転化においてヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)の重要性が指摘される所以であろうと思います。

それでは、ここで自動運転に関わる論点をひとまず整理しておきましょう。派手な報道には惑わされず、冷静に捉える必要がありそうです。

  1. 自動運転化は、技術開発面と法制度面が両輪となって進む必要がある。
  2. 国際ルールの改定は容易ではなく、独自解釈で技術開発を進める動きもある。
  3. 従来の手法では国際的な開発競争に後れをとる可能性が大きい。その為、未知の分野の課題については、特定条件のもとで実証実験等を積み重ねることにより解決策を模索していかねばならない。
  4. レベル3以上はシステム主体で車両制御を行うので、技術面、法制度面で整理すべき課題は多い。
  5. レベル5の実現には未だ目途が立っていない。


3.駐車場への影響 自動バレーパーキングの動向

⑴駐車支援と自動駐車
自動運転を実現していくうえでの動向や課題を俯瞰してきましたが、ここからは駐車場 ビジネスへの影響を考えてみたいと思います。

先ず駐車支援と自動駐車の違いを整理しておきましょう。既にブレーキや車間距離の維持、ハンドル操作などの運転支援機能は実用化されていますが、駐車操作に関しても、運転者がハンドル操作を行わなくても駐車場所へ自動的に誘導する機能が普及しつつあります。またドイツメーカーのBMWやメルセデスベンツからは、車外からリモコン等による遠隔操作で駐車できるシステムを備えた車種も販売されています。

これらの機能は、自動運転の定義ではレベル2に該当し、運転者が車内あるいは車外にいるかの違いはあるものの、操作の責任は運転者が負うものとされています。これに対し自動バレーパーキングは、運転者の手を離れシステム側で車両をコントロールして駐車場所への出し入れを行うものです。つまり駐車場内という一定の限定領域内において、システム側が車両をコントロールするものでレベル4に該当することとなります。自動運転は究極的には歩行者や一般の車両も混在する環境で実現することが望ましいのですが、先に触れた技術的な課題とともに法制度の課題も残っているのが現実です。ところが駐車場は一部の路上駐車場を除くと道路交通法の適用外となる等これらの制約が少ないことから、 自動バレーパーキングは他に先行して実用化への歩みが進んでいる分野と捉えることができそうです。

⑵自動バレーパーキングに期待される効用
ところが他の実証実験等に比較してメディアなどの取り扱いが少ない為、具体像が掴みにくいのが実態です。これを読み解く資料として経済産業省と国土交通省が共管する自動走行ビジネス検討会が本年3月30日に取りまとめた「自動走行の実現に向けた取組方針」 Version2.0(取組方針Ver.2)がありますので、以降はこの取組方針Ver.2を拠り所として考察してみることとします。

先ず自動バレーパーキングに期待される効用として、三項目が挙げられています。事務局の解釈を加えつつ整理すると以下の通りとなります。

  1. 安全性向上
    運転者等が降車した後は、駐車場所(車室)まで無人で移動するので場内での歩車混在が避けられる。
  2. 顧客満足度向上
    出庫時の混雑等による待ち時間の短縮、駐車場所までの徒歩移動の軽減が図れる。
  3. 経営効率の改善
    駐車場所(車室)での乗降がないためドア開閉用スペースが不要となり、収容台数が増加する。(凡そ20~30%) 併せて場内での誘導案内が不要となり、かつ駐車ゾーンの無人化が可能となるので人件費の削減が図れる。

これらの効用は、駐車場所から目的地入口まで距離のある郊外ショッピングセンターやテーマパーク等の平面駐車場、ビル・集合住宅等の機械式駐車場において顕著であるとされています。

⑶全体のロードマップ
とはいえ、メリットばかりではなく課題もあるはずであり、それらにはどのような対処が検討されているのか、駐車場側ではどのような対処が必要となるのか、それは何時頃になるのか等、さまざまな疑問が生じてきます。取組方針Ver.2で示された最新ロードマッ プは以下の通りです。

図3:自動バレーパーキングのロードマップ
図3:自動バレーパーキングのロードマップ

取組方針Ver.2より

 

上段部に実現したい姿として目標スケジュールが示され、下段部に現状の取組スケジュールや課題等が記載されています。

スケジュールに関しては、本年度から専用駐車場における実証実験が始まり、その検証や事前準備を踏まえて2021年度以降商業運用を目指すものとなっています。

システムの内容に関しては、昨年2月に当協会が共催した研修会にて、日本自動車研究所の方からも概念のご講演をいただいていますが、車両と駐車場の管制センターが協調して運用するものになっているようです。

⑷運用イメージ 先ずは専用駐車場を整備し安全性を確保
具体的な運用イメージは未だ公表されていません。方向性としては車両側と駐車場側双方の負担の最小化に留意しつつ、歩車分離のうえ場内の監視装置や管制センター等が設置された専用の駐車場を整備していくとのことです。

取組方針Ver.2に記載された車両と駐車場の管制センターとの協調イメージを入庫時と出庫時に分けて説明します。

入庫時

  1. 運転者が降車
  2. 管制センターより、車両へ場内地図を送信、走行経路、速度、駐車位置を指示
  3. 車両は、周囲の安全を確認しながら低速で指示された位置に駐車する

出庫時

  1. 運転者は、スマートフォンなどのアプリ等を利用して管制センターへ出庫の意思と出庫希望時間等をリクエストする
  2. 管制センターは、車両に対して走行経路、速度や運転者の待機場所を指示
  3. 車両は、周囲の安全を確認しながら低速で指示された場所に停車する

駐車場側は管制センターを設置して、場内の交通をコントロールする機能を持つことが求められます。その仕様や規模等は今後明らかになってくるでしょうが、最低限の準備として①場内地図のデジタルデータ、②各駐車スペース(車室)の使用状態を把握するセンサー類、③無線通信機能などは必要となりましょう。また、レベル4となるとシステム側がコントロールすることから類推すると、車両と管制センターの責任区分なども今後整理課題になってくるものと思われます。

尚、自動バレーパーキングに対応した車両側のシステム開発については、トヨタグループのアイシン精機が昨年秋にカナダで開催された第24回世界ITS会議においてデモンストレーションを実施し、数センチ単位の精度で車両を駐車させる技術を披露しています。 本年6月開催予定の当協会名古屋総会では、同社役員の方から自動バレーパーキングに関するご講演を頂くとともに、翌日の見学会では工場を訪問して実際の車両によるデモンストレーションを披露いただくことになっています。会員の皆様にとっても自動バレーパーキングへの理解を深めていただく良い機会となるものと期待しています。

参考)こだわったのは数センチ単位の精度...
    アイシンが自動バレー駐車サービスで実証 実験
   (レスポンスYouTubeチャンネル)
    https://www.youtube.com/watch?v=-rEvB0G84KY

⑸海外の動向
同様の試みは海外においても進められています。現時点で最も実用化に近づいているの はドイツのボッシュ社です。同社は2015年6月にダイムラーが展開しているCar2go事業でカーシェアリングと自動バレーパーキングを組み合わせたサービスの実現に向けた提携を発表。ダイムラーとは本年より実証実験としてシュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ・ミュージアムで一般人も使用出来るシステムを稼働させることとしています。さらに アーヘンに本社を置くe.GOモバイルという電気自動車ベンチャーと共同でアーヘン工科大学内の駐車場で年内にも実験的運用を始めるといった報道がなされています。

公表されているイメージビデオによりますと、スマートフォンのアプリを通じて運転者は管制センターへ指示を出し、その後はLidarやセンサー等の機器を通じて駐車場側と車両側の間でデータの遣り取りをしながら指定場所へ車両を誘導するシステムのようです。

(参考)メルセデス・ベンツミュージアムでの無人駐車システム実証実験  
    https://www.youtube.com/watch?v=f1g_C-H930k  
    ボッシュとe.GOモバイルの関連記事  
    https://motor-fan.jp/tech/10003831


4.最後に

今回の記事では、自動運転に関する報道がメディアに溢れるなか、その全体イメージと駐車場への影響を整理してみました。専門知識に乏しい事務局が公開資料等を基にまとめた為、理解不足等による錯誤も多々あろうかと思います。この点の責任はひとえに事務局にありますが、会員の皆様が自動運転について理解される一助となれば幸いです。本年は、いよいよ国内でも自動バレーパーキングの実証実験も始まります。引き続き情報収集に努めて参りたいと存じます。

以上