これからの駐車場ビジネス(第2回)「これからの駐車場ビジネスにおける技術面での展開」

第1章

三菱プレシジョン株式会社
社会・交通システム営業本部
駐車場システム営業部

部長 稲川 宏朗


第2章

ETC2.0普及促進研究会

事務局長 片山 賢治

まえがき

駐車場ビジネスを語るにあたり僭越ではありますが、先に連載された「これからの駐車場ビジネス(第一回)」にて問題提起されたことを中心に技術的観点から従来の動きと今後の展開について述べさせていただきます。

駐車場の課金システムは1980年代後半のバブル経済到来までは、比較的労働力に恵まれていたため有人式料金計算機(レジ式)が主流であり、管理面での機械化・省力化の要請は都市圏で比較的大きな駐車場に限定されていました。バブル期以降は人件費の高騰、駐車場係員のなり手不足等が問題となり、一方で多機能化・高速化・金銭管理の正確さが求められ全自動精算機が評価され、自動化・機械化・無人化が駐車場管理の主流となりました。新たなビジネスモデルとして「コインパーキング」誕生し、更に自動化・無人化が加速し管理を省力化する遠隔操作などの技術も必要となっております。

本稿では、第1章にこれまで各社が取り組んできた技術と概念を説明し、第2章には、ETC2.0普及促進研究会が取り組む研究テーマを解説しています。いずれも、これからの時代を創るために取り組んでいる課題ですが、ご高覧いただけますと幸甚です。

第1章

稲川 宏朗

1.情報通信技術(ICT_Information and Communication Technology)の活用

自動化・多機能化が進むなか商業施設等では利便性を向上し、1990年代後半から経営管理・分析に有効な車番認識システムが登場しました。通信インフラの高速化・大容量化等によりクレジットカード及び各種電子マネーによるキャッシュレス決済、きめ細やかな満空管理、監視や防犯カメラシステム等、駐車場管理・管制の高度化が求められています。さらに、利用者の利便性を高めるため対象商業施設が導入しているPOSレジと連動した駐車サービスや買い廻り認証サービス等によりサービス形態の省力化及び多様化するテナントへの平等サービス負担を確立するため、経理システムとの連動などにより経営合理化にICTが欠かせないツールとなっています。多様化する駐車場事業において、様々なニーズにより開発されたシステムの代表例を以下に紹介します。

1.1 車番認識システム

駐車場の出入口に設置した車番認識装置により、ナンバープレートの情報(文字・数字)を読取ることで、様々なシーンで採用されています。

【主なニーズ】

(1)出口渋滞を緩和するため事前精算した車はスムーズに出庫させたい。
(2)左ハンドルを含む、契約(登録)車両の入出場を簡単に行ないたい。
(3)ナンバープレート情報を経営に資する情報として活用したい。
(4)駐車券紛失や不正チェックを簡単に行ないたい等。

車番認識システム

車番認識システム

1.2 POS連動システム

商業施設等のPOSシステムと駐車場システムが連動し、駐車券に印字したバーコードをPOSで読み込むたびに、お買い上げ金額を集計して駐車場の割引料金を自動計算します。駐車料金精算時にお買い上げ利用額にあった割引サービスを自動で提供するシステムです。

【主なニーズ】
(1)サービス券(割引券)を売り場で配布する業務を軽減したい。
(2)売り場レジカウンターに余計な装置を置きたくない。
(3)金券であるサービス券(割引券)の管理業務を軽減したい(できれば無くしたい)。
※サービス券等は資金決済法(旧前払式証票法/旧プリカ法)の規制を受けるため厳格管理するためサービス券を廃止したい。
(4)テナント等店舗毎の駐車料金割引負担を公平に按分したい。また、買い廻り情報を経営情報として活用したい。

システムの流れ

システムの流れ

1.3 積上げ認証システム

POSを持たない店舗や商店街にて、各店舗に設置した認証機に各レジでお買い上げ金額を入力・集計し、駐車場の割引料金を算出し、利用者にお買い上げ利用額にあった割引サービスを提供するシステムです。複数店舗が並ぶ複合施設や商店街などからのニーズにより開発されたシステムです。

積上げ認証システム

積上げ認証システム

【主なニーズ】
(1) 複数ある提携駐車場の機器メーカー(駐車券)が異なるが、対象店舗では統一券(買い廻り券)にてお買い上げ金額を集計して駐車場の割引料金を自動計算したい。
(2)POSシステムとの連動はできないが、お買い上げ利用額に応じたサービスを提供したい。
(3)テナント等店舗毎の駐車料金割引負担を公平に按分したい。また、買い廻り情報を経営情報として活用したい。

1-4 QRC(QRコード)システム

従来の磁気駐車券にかわり、QRC駐車券(紙券)を精算機で光学的に読取ることを可能としたシステムです。駐車券から磁気記録面が不要となりランニングコストの低減を図ります。施設利用者から駐車料金をほとんど徴収しないショッピングセンターや病院などからのニーズにより採用されたシステムです。

【主なニーズ】

⑴ 目的外駐車と長時間駐車を排除するため、課金装置を設けるがランニングコストを軽減したい。
⑵ 廃棄する回収磁気式駐車券が有料の事業ゴミとなるため無料の一般ゴミとして処理したい。
※QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

QRC(QRコード)システム

QRC(QRコード)システム

2.万能ではないICT(ICT Information and Communication Technology)

技術的に優れ効用が認められても費用を無視した投資が許されるわけではありません。費用対効果や付加価値の観点から、利用者の満足度を第一優先で考えて新たな技術は導入されていかねばならないと考えております。一部では人件費を増やしてでも、人手で代替できるヒューマンサービス(バレーサービスなど)で顧客満足度を高める駐車場経営が評価され、機械化万能に見直しが起きているのも事実であろうと考えております。ICTを活用したシステムは直接的利益を生むシステムではないため、利用者の利便性を考慮し、必要とする経費以上の効果が得られるのか検証しなければなりません。

【バレーサービス】

バレーサービスお預かり

お預かり

回送

回送

お渡し

お渡し

※出典 日本駐車場開発株式会社

3.これからの駐車場ビジネス

近年の駐車場事業において長期的視野で対処すべき課題として人口の高齢化、少子化及び若者の車離れなどによる自動車利用の減少・駐車需要の減退が考えられます。また、障がい者や高齢者・乳幼児連れなど、社会的弱者ドライバーの保護も求められております。これらの課題に対応するため、「思いやり」のある駐車場経営が必要であり、ICT技術等を活用しながら、利用者が安全かつ快適に使え、併せて経営する側にとっても有益なシステムが開発されていくと考えております。

4.駐車場事業に関わる新技術

ニュースメディア等で目にする2つのキーワードを紹介します。

4-1 自動運転車両への適応
自動車メーカー各社は自動運転機能の開発に注力しており、駐車場側も法的な制度設計等も加味しつつ、車両の新機能・性能に対しハードとソフト両面で駐車場インフラを構築する必要があります。卑近な例では、既に一部車種に導入されているパーキングアシスト機能が“自動駐車システム”に進化し大多数の車両に標準装備される頃には、構造・附置義務等で適応可能な駐車場で、走路・車室レイアウトを整備する等ハード面での対応が必要となると考えます。

また、“自動運転機能”の具体的活用例として話題の「自動バレーパークシステム」についても、スマホ利用での遠隔エンジン操作など車両側の技術開発が先決とはいえ、駐車場側でも導入可能なインフラ環境を整えなければならないと考えております。自動バレーパークを実現するには、場内では歩行者はおろか一般の車両交通も遮断された「自動バレーパーク専用駐車場」の整備が必要と想定されるため、街なかの一般駐車場を対象にするには厳しいのでないかと考えております。ホテルやイベントホール、大規模な商業施設の専用駐車場等から導入が始まるものと推測されますが、身近な発想としては、大規模オフィスビル地下等で導入されている自動の機械式立体駐車場(平面往復・コンベア式/いわゆるIPSの類)と自動運転機能の融合は研究課題ではないでしょうか。これらの機械式駐車場では、入庫口前まで車両を運びさえすれば位置修正から入庫・格納・出庫操作すべて自動操業可能であるため、ホテル等施設の入口で人が車両から降り、あとは専用走行路を確保して機械式駐車設備の入庫口まで車両が自動走行ないし自動移送される環境(出庫は逆のプロセス)さえ整えれば、新たに広大な専用駐車場を建設せずとも自動バレーパークが実現できそうです。

とにかく近未来の駐車場業界にとり、自動運転技術への対応は技術・経営両面で大きな命題となるものと思われます。

4-2 ETC 2.0の活用
現在ETC関連の既存技術を高速道路通行料課金以外の決済や情報サービスに活用すべく研究開発が各方面で進められています。その一つとしてETC技術の駐車場への活用、特にキャッシュレス決済の将来について、次の第2章で取り上げることと致します。

第2章

片山 賢治

1.駐車場におけるETC活用の研究

私どもETC2.0普及促進研究会では、既に8,000万台近くまで普及したETCおよびETC2.0を活用し、民間駐車場での料金収受が行えるよう目指して研究している任意研究活動団体です。

本稿におけるETCとは、クレジットカード会社によって発行された高速道路料金精算が行えるETCカードとETC車載器を指します。

1-1 経営視点
研究会が専門的に取り組んできた技術的課題や運用課題の研究について述べていきますが、その前に、必ず質問やご意見を頂いているものを踏まえながら説明したいと思います。「ETC」と聞いて出てくる多くの質問・ご意見は、「ETCは新たな決済手段であり、すでにクレジットカード払いや鉄道系交通カードなど多くの決済手段を導入しているので、これ以上の追加投資はしたくない」という経営視点での捉え方です。

まずは、ここについて理解を深めることが、さまざまな課題の解決や普及につながるのだろうと考えています。結論から申し上げますと、ETCは新たな決済手段ではなく新たなサービスが始まる入口です。クルマを利用する生活者のマーケティングと、駐車場マネジメントを経営テーマとして捉えていただくことで事業再構築の方法が見えてくるでしょう。

1-2 ETCが独自に持つポテンシャル
ETCシステムは、以下の3つの機能が複合的に備わっている画期的な「ドライバーによる決済&認証サービス」となります。
⑴キャッシュレス+チケットレス (チャージ不要で決済可)
⑵スマートペイメント (暗証番号入力不要なクレジットカード決済であるという点)
⑶顧客CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理が可能になる)

1-3 これまでの駐車場決済手段の課題を解決
これまでは「ドライバーが誰なのかは分からない」という状態において駐車料金を精算するため、駐車券の発行によってクルマとヒトを結びつける必要がありました。これでは、現金でもクレジットカードでも、どのような支払方法を導入しても駐車券をなくすことは出来ません。

この点をETCパーキングにおいて考察しますと、ETC車載器のIDはクルマのIDであり、ETCカードのID(カード番号)はヒトのIDであることから、料金所入口において、この2つのIDをETC通信で同時取得でき、クルマとヒトの結びつけが入口で完了しています。従って、ETCでは入口(チェックイン)でゲートを開け、出口(チェックアウト)では自動的に料金を精算してゲートを開けることができるようになります。このようなチケットレス決済(駐車場券不要)の運用ができるのは利用者ドライバーが誰なのかを分かっているからであり、この点では利用者が特定できている交通系ICカードの自動改札機と似ています。

このことから、駐車場料金所にも、高速道路料金所と同じようにETCアンテナを設置することで料金収受を行うことが可能であると考えています。

●日本政府発表の資料によりますと、
「駐車場等、高速道路以外の施設でもETC等のITS技術が利用可能となる環境を整備し、利便性の向上を図る。」とされています。
※世界最先端IT国家創造宣言(平成25年6月14日閣議決定)より抜粋。
このように、日本政府はETCの駐車場活用を目指していると明確に宣言しています。当研究会ではETCを「新たな決済手段」というだけでは捉えておらず、「駐車場」という空間の機能を再考し、利用者との再結合(イノベーション)を生み出す手立てとして研究を進めています。

2.ETCパーキングで起こるイノベーション

2-1 顧客像は利用車(クルマ)から利用者(ドライバー)へ

これまでの、駐車場をはじめとするロードサイドビジネスにおいて、「クルマ」で来られるお客様へ再来店をどのように促進してきたかを考えてみます。

例えば、ガソリンスタンドやドライブスルーでは「クルマ客」の顧客化を進めるため、会員カードなどを使って割引やポイント付与といったインセンティブを提供し、リピーター(再訪客)を増やそうと努力してきました。これらの経営手法とはつまり、利用車から利用者へ顧客像の対象を移すことです。

百貨店では、お買い上げ金額や会員ランクに応じて駐車場無料券をお渡しするなどの、金銭的インセンティブによって再来店の促進を図っています。これはつまり、駐車場来客者のお買物を促進するために、駐車料金へサービス対象を移していると見ることができます。なぜならば、クルマ客は他の交通手段による来店客よりも多くの荷物を運べるので、自ずと買い上げ金額が高くなる傾向があり、コンビニ等の少額小売店でさえ、駐車場の大きさと売上げが比例すると言われているからです。

そこでETCパーキングでは、ETCカードを会員IDカードとして活用することで、一つの駐車場だけでなく同業他社・異業種の会員カードと連携が可能になり、利用者が望めばETCカード一枚で、様々なポイントプログラムや会員制度に参加できます。このように駐
車場を利用するにあたっての紐付けが、クルマからヒトになることで、これまでの満空情報といった情報提供にとどまっていたのが、他施設の優遇情報など、新たな利用促進につながる情報発信もできるようになるのです。

▼ETCカードのIDを活用した利用者単位での経営分析の考察例

⑴利用頻度の分析 (週に〇回、月に〇回利用など)
⑵利用時間の分析 (平日は〇〇分、休日は〇〇分など)
⑶利用習慣の分析 (平日の夜に利用。水曜日にのみ利用しているなど)
この3つの分析によって、利用者の行動特性が見えてきます。その結果、利用者別の料金設定や、サービス提供によってリピーターが増えれば経営力は高まっていくでしょう。

2-2 利用車から利用者へ ~ドライバーが見えたとき、サービスが変わる~

こうした顧客分析が活用できるようになった場合に、ETCパーキングの買物割引はどうすれば最も効果的であるか?

という具体的テーマについて考えてみましょう。この研究課題は、すこし真剣に考える必要があると思っています。割引を実施している商業施設側は、リピート率を上げるための特典サービスとして、金銭的割引を行っている訳ですが、これは、「現金精算」というこれまでの仕組みに基づいて生み出された顧客囲い込みの経営手法です。これに対して携帯電話など「クレジット払い」のサービスでは、割引方法も進化し「家族割引」や「セット割引」なども広がり、「契約するとカップラーメンがもらえる」というような商品と景品のコントラストを利かせた、口コミ戦略を狙う特典サービスも登場しています。

では、このような時代背景やIoT技術に合わせたETCならではのインセンティブ開発はどのようなものが考えられるでしょうか。商業施設側としては、駐車場が足りないことによる来店機会損失を防ぎ、かつ個客単価を上げ、リピート率を高めることが本来の目的です。駐車場割引は手段であり、本来はやりたくないのだとしたら、ETCパーキングが登場したにも拘わらず従来の現金精算スタイルの駐車割引券をそのまま運用し続けることになるでしょうか。ETCカードはクレジットカードによる後払いであることから、商業施設でクレジットカードを使ったら、自動的にETCカードで駐車場料金も連動してインセンティブを付けることができそうです。ETCパーキングではクレジットカード決済ですから、利用毎の現金精算とは違って、締め日までに利用者へ請求する額を計算すれば良いわけです。

つまり、当月の来店頻度、利用時間、購入額や、顧客の記念日、保有ポイント、家族割引などの要素を複合的に加味して精算することができるのであれば、利用時点で現金値引きするだけではない利用者との新しい関係性(relationship)を上手に生み出せる可能性が出てくると思います。

次に、「ETCパーキングの料金」について考えてみます。

ETCによって現金精算が不要になると、料金の設定は非常にフレキシブルな組立ができるようになります。料金、通常の買い物でクレジットカードを使う場合と同様に決済センターシステムでの「超高速オーソリ」という仕組みを使い、利用者が駐車場の入口と出口を通過した時点で料金計算と決済を瞬時に行います。そうしたことから料金計算は駐車場毎ではなく、センターシステムで一元的に行うことも可能です。

▼ETCで可能な料金設定の例をあげると、

  • 10分単位の料金    (キャッシュレスで少額決済可能)
  • 利用者設定料金    (利用者の属性による料金。会員料金、法人契約料金など)
  • 多頻度利用料金    (平日、夜間などの利用形態に応じた料金パック)
  • 他駐車場との連携料金 (観光地周遊パスなど)
  • 上限料金       (実質的な月極め契約のカード払い方式)
  • ファミリー料金    (クレジットファミリーカードを利用)
  • 法人料金       (法人ETCカードを利用)
  • 施設連携料金     (ETCの親クレジットカードの買物利用とセット)
  • 予約料金       (Web予約時点で事前精算が可能)

会員登録制度などを用いれば、これら以外にもさまざまな料金戦略が可能であり、また戦略的料金設定もセンターシステム化によってきめ細かな対応が可能になります。

2-3 ETCパーキングによって実現できる地域振興

クルマを利用して旅をするドライブツーリズムにおいては、ドライバーが探して辿り着く場所は、本来の目的地ではなくクルマの置き場所である近隣の駐車場であるという現実があります。このことから「地域密着型駐車場」の整備は極めて大切であり、これが「地方再生」の鍵となるともいえます。では具体的に地域密着型駐車場とはどのようなものでしょうか?

たとえば、自治体による誘導策により整備されたフリンジ駐車場などです。駐車場配置の適正化は各都市で始まっており、大阪市、名古屋市、横浜市、仙台市、金沢市などでは、具体的に条例等を定めて隔地駐車場の整備誘導、或いは景観を保ち歩行空間を確保するために駐車場出入口の位置を規制するなどしています。

しかしながら、自治体による駐車場適正化策には課題が残っていると言わざるを得ない状況がまだまだあり、その根本的な原因は、「街づくり」において駐車場の役割や位置づけがあまり重視されてこなかったことにあるのかもしれません。

地域における振興と駐車場の関係については、大きな地域イベントにおいて観光箇所毎に臨時駐車場を設けて個別に料金を徴収するため、これが参加者の負担感となり周遊を阻害しているという課題が生じています。これが俗に「ラストワンマイル問題」と呼ばれるもので、駐車場の機能(ポテンシャル)が地域観光と連携できていないということです。

この「ラストワンマイル問題」とは、目的地到達までの最終行程におけるコスト負担感という側面を示しているともいえます。クルマを使う旅行者は、目的地に到着するまでに高速道路料金や燃料代に大きなお金をかけてきたのですが、最後に現金で支払う駐車場料金がストレスとなり、さらに複数箇所の駐車場を周遊するとなると大きな心理的阻害要因になってしまうということです。

この問題に対応するため、三浦半島にある城ヶ島駐車場では周遊ワンデーパス制度を導入しました。450円で指定の観光地駐車場を周遊することが出来ます。筆者もよく利用していますが、駐車料金ストレスがなくなったことで、食事と観光と宿泊は周遊駐車場の周辺で行うようになりました。これが駐車場付き観光ということでしょう。

さらに進化すれば、高速代、燃料代、駐車場代などのすべての旅行コストを組み合わせてワンパッケージにした「ダイナミックパッケージ化」がドライブツーリズムにおいて最も効果的な戦略となります。これによりラストワンマイルのストレスを旅行前に解消しておくことが出来ます。筆者は、ダイナミックパッケージ戦略とETCパーキングの組み合わせが、観光を通じた地域振興と、地域密着型駐車場の活用を促進する有効な施策になるのではないかと考えています。

また、ETCパーキングのメリットを更に活用して、駐車場の事前予約や周辺観光地の入場料金もセットにすることで、閑散期に滞在時間を長くしたり、逆に繁忙期は回転率を上げるといった方策を使い分けることも可能になるのではないでしょうか。

3.ETCパーキングの未来像

研究会が考案した、ETCパーキングの未来像をいくつか提示しましょう。

ここでは、ETC専用パーキングとすることでローコスト経営を目指し、利用車(クルマ)から利用者(ドライバー)へサービス対象を移した姿をなるべく具現化しています。まだまだ多くのサービス形態が生まれてくるものと期待しています。

3-1 街なかETCパーキング

自走式の場合、ETC2.0車載器では発話音声によるガイドが可能。ETCで入出場管理と本人認証、決済が確実に行えるため、カーシェア事業者などとの新たな共同サービス開発も。

街なかETCパーキング

街なかETCパーキング

3-2 住宅街ETCパーキング

住宅街でも駐車場需要がある状況で、コインパークが広まっていくと街はどんどんスポンジ化していきます。ETCパーキングでは、自宅で使われなくなったカーポートにETCアンテナを設置するだけで、手軽に駐車場オーナーになれます。住民が持つ潜在的な許容力(キャパシティ)を使って街を壊さずに外来者を受け入れることになります。このような新しい利用シーンもETCによって想像できるほか、地元の駐車場事業者が住宅街へ展開していくうえでも、住民と連携した安心される運用管理が可能になると思います。

住宅街ETCパーキング

住宅街ETCパーキング

3-3 地方でのETCパーキング

日本には多くの街道があります。「風景街道(シーニックバイウェイ)」などはドライブツーリズム(クルマ旅)にとっては素晴らしい取り組みなのですが、いざクルマを置いて散歩や食事がしたいとなれば道端に駐車場が見つからない。安心してクルマを駐車できる道の駅だけが誘客していくことになり、地方のクルマ旅も結局は駐車場巡りとなってしまっています。昔の街道は、街道そのものが現金収入の道でもあり、宿、茶屋、おみやげといった地産商業が生まれ、地元の人が道を大切にメンテナンスしてきました。

地方でのETCパーキング

地方でのETCパーキング

そこでもし、街道沿いの農家の空き地を有効利用できるETCパーキングが普及したら、もっと気軽にクルマ旅が楽しめるはずです。農家にも現金収入が生まれ、地方再生にも大きな影響を与えられる可能性があります。

最後に

以上、様々な視点で、ひとつの研究会として述べてきましたが、ご参考になりましたでしょうか。特に、ETCを活用した駐車場は、
①ETC精算によって現金を取り扱う必要がなくなる
②すべてのETC利用者が顧客対象になってくる
③ETC料金収受によって構築される決済ネットワークを基盤に、さまざまなロードサイドコラボレーションが可能。
という大きな3つのメリットがあります。

もし、ETCサービスが始まりましたら、駐車場事業者間の様々な、新しい取り組みが生まれることも期待しております。ETCによってIT化された駐車場は、利用対象者がクルマからヒトへ移り、画一的なサービスから、利用者毎の顧客マネジメント(CRM)へと発展させていくことができます。経営効率だけでなく、少子高齢化時代にもとめられる「思いやり」駐車場運営の実現にも近づくのではないでしょうか。

私ども研究会では、少しでも早くETCパーキングの実現に向けて研究活動を続けて参りますので、皆さまのご支援の程、よろしくお願い申し上げます。