駐車場整備の変遷 (最終回) 「駐車場を取り巻く現在の動向と課題」

駐車場整備の変遷 (最終回)

「駐車場を取り巻く現在の動向と課題」

一般社団法人全日本駐車協会事務局

当連載も今回で第8回を迎えました。2015年4月発行の第210号より、戦後70年の節目を迎えるにあたり、駐車場業が事業として始まる黎明期から現在に至るまでの歴史を振り返り、様々な会員並びに友好団体の方々からご寄稿をいただきました。

第1回 我が国初の自走式立体駐車場 「丸ノ内ガラーヂの誕生と歴史」

丸ノ内ガラーヂ株式会社 松田社長


第2回 「戦後復興期の都心駐車事情と、地下駐車場の登場」

東京ガレーヂ株式会社 小清水CEP


第3回 「駐車協会誕生・駐車場法施行、そして都市計画駐車場の拡充へと進む」

東京ガレーヂ株式会社 小清水CEP


第4回 「都市計画駐車場の整備」

八重洲地下街株式会社 宮良常務


第5回 「公営駐車場の整備」

「駐車場整備における官の役割」

公益財団法人東京都道路整備保全公社 渡部部長

「首都高のもう一つの顔、都市計画駐車場について」

首都高速道路株式会社 大西取締役


第6回 「地方都市における駐車場整備」

「名古屋における戦災復興計画と都市計画駐車場の展開」

株式会社エンゼルパーク 河竹社長

「綾杉駐車場から見た福岡市の駐車場事情」

綾杉不動産株式会社 中尾代表取締役


第7回 「さまざまなタイプの駐車場の登場と普及」

「機械式駐車場の登場と普及」

公益社団法人立体駐車場工業会

「自走式駐車場の登場と普及」

一般社団法人自走式駐車場工業会

「コインパーキングの登場と普及」

一般社団法人日本パーキングビジネス協会

これらを改めて読み返してみると、先人達の気概や挑戦、或いは現在では普通に感じていることが何故そのようになったのかなど、駐車場に携わる者として改めて知る良い機会を提供していただいたと感じます。連載最終回となる今回は、視点を現在から未来へ向けて駐車場事業を大きく変えていく可能性のある要因について考察することとします。

1.技術革新について(ETC2.0、自動運転、新ビジネスなど)

当協会では従来から、EV対応やFCV(燃料電池車)、自動車に関わるシェアリングシステム等について講演会や研修などで取り上げてきましたが、この一年ほどでメディア等でも大きく取り上げられるようになってきました。要因のひとつは2020年に開催予定のオリンピック・パラリンピックを節目として政府が様々な技術の実用化に向けて政策決定したことにあると思われます。勿論これらの技術は一朝一夕に実用化できるものではなく、関係業界による数十年に渉る研究開発の成果でありますが、AIに代表される技術等が加速度的に進歩したことや、オリンピック開催決定を機に国際競争力の維持強化を進めたい政府の考えを反映したものともいえます。ここでは会員の方々が頭の整理をしていただくことを目的に、自動車と駐車場に関連する技術や新たなビジネスの概略を紹介したいと思 います。

⑴ETC2.0

ETC2.0とは、道路沿いに設置されたITSポスト(通信アンテナ)と対応車載器(DSRC通信対応)との間の高速・大容量通信により、現行のETCよりも広範囲の渋滞・規制情報や安全運転支援などを受けられる運転支援サービスです。2009年にモニター募集を開始して以来、社会実験を行ない、昨年からは首都圏の渋滞対策として迂回ルートを利用した場合に割引料金が適用される等、順次サービスが拡大しています。

現状で提供されているサービスは、

①高速道路・有料道路の利用料金精算

従来のETCと同様の機能

②安全運転・災害時支援

合流注意地点等の情報を図形や音声で注意喚起。災害時も支援情報を提供

③渋滞回避支援

広域情報が受けられる為、渋滞を回避した最適ルートの選択が可能

④料金割引サービス

圏央道ルートの割引

 

といったものとなっています。

今後さまざまなサービスの拡大が予定されており、特に駐車場に関連する分野では高速道路等に限定されていた利用料金の精算機能が民間駐車場へも解放されることです。 ETC2.0対応車載器を取り付けた自動車は駐車券や精算機を使うことなくキャッシュレスで精算が可能となります。民間でも利用可能となる具体的時期は現時点では発表されていませんが、駐車場を運営する事業者にとっては設備面での対応を考えねばならぬ一方で、運営の効率化に繋がる可能性が高いことから注目していく必要があります。尚、類似したシステムを既に運用しているシンガポールの事例を当機関誌第215号に掲載していますので興味のある方はご参照ください。

⑵自動運転

自動運転について政府では4段階に分類しており、ドライバーの運転を補助するレベル1から完全自動走行を実現するレベル4まで徐々にレベルが上がっていく定義をしています。衝突防止の自動ブレーキや車線からはみ出さないで走行するシステムは既に搭載した車種が販売されていますが、これらは各車両が単独で作動するものでレベル1の機能です。また車線を維持しながら前の車について走る機能を有する車種も一部で販売されており、これはレベル1の技術を組み合わせてシステムの複合化がなされているということでレベル2に該当するものとされています。

自動運転の定義

自動運転の定義

出典:国土交通省

一方、自動運転の実現により期待される効果については、人口構造の変化、省エネルギーを含めた環境対応、国際競争力維持などを背景に、交通事故の低減、渋滞の解消・ 緩和、少子高齢化への対応・生産性の向上、国際競争力強化の4項目が挙げられています。

自動運転開発により期待される効果

自動運転開発により期待される効果

出典:国土交通省

また進捗スケジュールについて、政府は昨年5月に決定した官民ITS構想・ロードマップにおいておおよそ下記のように示しています。

自動走行技術の開発状況

自動走行技術の開発状況

出典:国土交通省

昨今メディアなどで自動運転タクシーや自動運転バスを運行する社会実験が数多く報じられていますが、このように見てみると、レベル2を実現するための実験であったり、レベル4の無人自動走行移動サービスをエリア限定で2020年までに実現するためのものであることがわかります。

これらは技術面についてですが、同時に法制面での整理も並行して進められていま す。自動運転に関する国際ルールの制定や自動運転車が人に損害を与えた場合の責任のあり方について議論が進められており、“技術面を中心とするシステムの実証”と“法制面などのルールの整備”という異なる課題解決が自動運転の実現には必要であるということです。

さて、これらの自動運転の動きが駐車場業界に及ぼす影響ですが、一番注目すべき動きは自動バレーパーキングの実現であると思われます。ホテルなどのエントランスで車両の鍵を預けて止めてもらい、帰りはフロントまで移動しておいてくれるバレーサービスを自動化しようというものです。実現すれば、車両事故の3割を占めるといわれる駐車場内での事故を大幅に減らすことが期待でき、利用者が駐車場所まで足を運ぶ必要がなくなるとともに、車室に無人の車両が入るので運転者などが出入りするスペースが省けるため駐車台数を従来よりも増やすことも可能になるとされています。本年より当協会の会員企業も参加して実証実験が開始され、2020年ごろには対応車両について専用駐車場での運用が始まり、一般交通が混在した状況での自動走行(レベル4)が可能となった段階で、一般駐車場での展開が実現することとなっています。

自動バレーパーキング

自動バレーパーキング

出典:国土交通省

⑶シェアシステム

シェアリングについてはシェアリングエコノミーという言葉も多く使われるようになってきました。駐車場に関連するものでは従来からカーシェアリングが広く知られており、(公財)交通エコロジー・モビリティ財団の調査では昨年3月時点でステーション数 10,810か所(前年比14%増)、車両台数19,717台(同20%増)、会員数846,240人(同24%増)と、ここ数年で社会的認知も進み普及のスピードが増してきています。同時に事業者の集約も進み、現在はコインパーキングを運営する企業やレンタカー運営企業が主要事業との相乗効果を生む形で事業を拡大してきています。

シェアシステム会員数と台数比較

シェアシステム会員数と台数比較

出典:(公財)交通エコロジー・モビリティ財団

新たな形でのシェアリングとして月極駐車場あるいは一般個人の駐車場の空きを埋める形で“駐車場シェアリング”もビジネスとして拡大してきています。当初は月極駐車場で次の契約者が決まるまでの期間に一日単位で利用者を仲介するものでしたが、より短時間の利用も可能となるとともに、郊外で開催されるイベント等では会場近隣の一般住宅の駐車スペースを対象に加えるなど、従来とは異なる市場が形成されつつあります。このビジネスの特徴は、駐車場を運営する場合に従来は管理人員の配置や精算機器設置等の投資が必要であったものが、ネットワークを利用してオンラインで予約や精算も行うことが可能となり、駐車スペースを貸す側では何ら投資をしなくとも収益をあげられることです。大きな収益に繋がるかは議論のあるところでありましょうが、稼働率アップの方策として認知されてきています。当初は隙間産業的にビジネスベンチャーが始めたものですが、市場が拡大するにつれてIT企業や大手コインパーキング事業者も参入するなどの動きがでてきています。

最後にシェアサイクルにも触れておきましょう。シェアサイクルは自転車の社会的認知度が高い欧州において都市内での移動手段の一つとして発達してきたものが、環境意識の高まりとも相まって米国を含め世界の各都市でサービスが広まっています。我が国においても2005年頃から各都市で社会実験が行われ、以下で述べるコンパクトシティ政策の推進や2020年開催予定のオリンピック・パラリンピックに合わせて東京都区部においても導入が進んでいます。事業として安定的に運営していくには一定規模以上での展開が必要とされており、現時点では行政や企業による支援を得ている状況ですが着実に普及が進むものと思われます。駐車場としても、都市における交通結節点としての機能を果たしていくうえで、サイクルポートといわれる自転車置き場を提供するなどの対処をしていくことが求められています。

2.コンパクトシティ政策の行方

第二の論点として、政府が掲げる政策であるコンパクトシティがあります。2014年に改正された都市再生特別措置法において、「コンパクトなまちづくり」と「公共交通によるネットワーク」の連携が措置され、“都市機能を誘導する区域”と“居住を誘導する区域”を定め人口減少時代になっても必要な都市機能を維持できるよう「立地適正化計画」 を策定するよう定められました。今回の改正では、従来とは異なり都市計画的な措置と交通系の措置の連携が強く意識されていることが特徴です。都市機能の集約化と同時に、それら施設への住民のアクセスを確保する手段として公共交通を活用促進が唱えられている訳で、「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」という考え方も強調されています。 そのような流れのなかで、既存の鉄道やバス路線の活性化とともにLRT(ライト・レール・トランジット)や、BRT(バス・ラピッド・トランジット)といわれる新交通の導入も各地で検討され、一部の都市では先行事例として運行が開始されています。

富山LRT

富山市LRT

新潟市BRT

新潟市BRT

「立地適正化計画」において、多くの会員の方々が事業をしておられる中心市街地は都 市機能誘導区域に含まれると思われるので、再活性化に向けた施策がとられることとなります。しかしながら移動手段としての自動車の位置づけが変わってくるので、それに伴う駐車場の位置づけもそれぞれの都市でどのように変わっていくか注視していくことが非常に大切になってきます。

⑴立地適正化計画と駐車場について

ここで、立地適正化計画における駐車場の位置づけを確認するとともに、それによって予想される事項について考えてみましょう。

先ず、適正化計画は都市の将来像を規定するものですから、その対象は都市計画区域全体となります。その中に居住誘導区域を設定し、更にその内側に都市機能誘導地域が設定されることとなります。これらは必須事項として定められているものですが、任意事項として駐車場配置適正化区域と跡地等管理区域を設定することとなっています。

立地適正化計画区域

出典:国土交通省

それぞれの内容は以下のようなものです。

<必須事項>

①居住誘導区域

人口減少のなかにあっても一定エリアにおいて人口密度を維持することにより、生活サービスやコミュニティが持続的に確保されるよう、居住を誘導すべき区域

②都市機能誘導区域

医療・福祉・商業等の都市機能を年の中心拠点や生活拠点に誘導し集約することにより、これらの各種サービスの効率的な提供を図る区域

<任意事項>

③駐車場配置適正化区域

歩行者の移動上の利便性及び安全性の向上の為の駐車場の配置の適正化を図るべき区域

④跡地等管理地域

空き地が増加しつつあるが、相当数の住宅が存在する既存集落や住宅団地等において、跡地等の適正な管理を必要とする区域

駐車場配置適正化区域は中心市街地において駐車場へ向う自動車と歩行者が交錯する恐れの強いエリアを設定し、駐車場を適正に配置するための施策を講じ、道路交通の混雑・輻輳を解消する区域ということです。

具体的な施策は駐車場法の特例制度を設けて、路外駐車場については条例で定める規模以上の設置をする場合は市町村長への届出を義務付けるとともに、附置義務駐車施設については集約駐車施設を区域の周縁部(フリンジ)に設置するよう義務付ける等の措置により、駐車機能の適正配置を区域内で誘導していこうというものです。

また、集約駐車施設を誰が整備していくかという点に関しては、

①民間事業者
・附置義務を負う建築主等による共同整備
・附置義務台数以上の施設を整備して余剰分を貸し出す建築主等
・附置義務を負わない民間事業者(駐車場事業者)
②公的主体(地方公共団体、まちづくり会社等)

といったパターンが想定されています。これらから見えるのは、附置義務を負う建物の建築主は集約駐車施設に駐車スペースを自ら所有する以外に、賃借することも可能で あるということです。このことは、駐車場事業者にとっては区域内の駐車施設を整備することにより従来の月極と時間貸という区分とは別に、附置義務分という長期契約スペ ースの区分が生じるともいえます。立地適正化計画の遂行を支援するために、行政は一定要件を満たす都市施設の建設にあたり、経費の補助や軽減税率の適用、更には課税繰り延べなどの税制措置も用意しているので、駐車場事業者として集約駐車施設の建設や運営は新たなビジネスチャンスとなる可能性もでてくると思われます。

⑵立地適正化計画の策定状況

国土交通省によると昨年7月末時点で計画作成の具体的取組を行なっている都市は289団体、そのうち計画を策定し公表済の都市は、大阪府箕面市、熊本県熊本市、岩手県花巻市、北海道札幌市の4都市となっています。また115団体については、平成28年度中に計画を策定・公表する予定であるとされています。

各都市のおける主な取組状況

基本的な流れ
検討開始→素案(案)策定→パブリックコメント・説明会→素案修正・確定→事前周知→公表

エリア別取り組み

エリア別取り組み

政令指定都市となっていない県庁所在地(札幌市を除く)や地域の拠点都市で計画作成に取り組んでいる事例が多く、パブリックコメント手続まで進んでいる都市については、本年4月の公表予定としているようです。また、留意すべき点として立地適正化計画は都市計画と相俟って、それぞれの都市の将来に向けたグランドデザインを示すものであることから、計画の進捗に応じて適宜見直しが行われるということです。従って、中心市街地等で駐車場を経営する事業者としては適正化計画の策定時のみならず、計画の進捗状況を継続的に注視し、時には意向表明をしていくことも必要であると思われます。

3.今後の課題

このように見てくると、技術の進歩による変化と社会構造の変化による“まちの有り様” の変化が同時に起きているのが我が国の状況であるといえます。従来の変化と異なる点は技術面での進歩の速度が各段に早くなっていることであります。ビッグデータの活用やAIの進歩により社会が全く異なったものとなっていくことは間違いないと思われます。しかし、もう一方で考えておかねばならないことは普及のスピードという観点ではないでしょうか。国土交通省のデータによると自動車が新車登録されてから最終的に廃車となるま での期間は平均で約13年となっています。つまり、街を走っている自動車が完全に入れ替わるには10年以上の歳月が必要であるということです。新たな技術を従来型車両に付加的に搭載して対応させる措置がとられたとしても、現行のETCが普及するまでに時間を要した例を見るまでもなく、相当の期間は従来システムと新システムが併存することになります。従って拙速に対応を急ぐのではなく、適切なタイミングで適切なレベルの対応をしていくことが極めて重要となってきます。

今回の連載では先人達の奮闘努力を改めて知ることが出来ました。協会としても引き続き会員の皆さんにとって有益な情報提供や施策に取り組むことにより、先人達に負けぬ気概を持って駐車場の役割が高まるよう努めていきたいと考えます。